공유

7-7 芽生え始めた嫉妬心 1

last update 최신 업데이트: 2025-04-11 19:06:56

「え? 翔先輩から病院へ来るように言われたんですか?」

部屋に荷物を置いて琢磨の元へ戻って来た朱莉に、翔から先程言われた事を一応琢磨は報告した。

「ああ、そうなんだ。全く翔は……」

「分かりました。病院へ行きます」

「え? ええっ!? 本当に行くのかい?」

「はい、翔先輩が私を呼んでるんですよね? それに明後日には九条さんと翔先輩は東京に戻ってしまいます。明日香さんは今絶対安静ですよね? そうなると着替えや洗濯とかのお手伝いがこれから必要になると思いますので」

「え? 本気で明日香ちゃんの世話をするって言うのかい?」

琢磨には信じがたいことだった。

(朱莉さんはあれ程明日香ちゃんに嫌な目に遭わされてきたのに。それでも明日香ちゃんの世話をするっていうのか……?)

「九条さん、それでは早速行きますか?」

朱莉は琢磨を見上げた。

「い、いや。それなら病院へ行く前にまずは先に不動産屋へ行こう。実は朱莉さんがこれから住むマンションをもう決めてあるんだ。だから手続きに行かないとならないんだよ」

「そうなんですね? 九条さん、お忙しいのに私の為に本当に何から何までお世話になりっぱなしでありがとうございます。でも、これからは沖縄と東京で離れた生活になります。なので今後は九条さんのお手を煩わせないようにここで明日香さんが無事出産するまで見守って行こうと思います。それに、ひょっとすると……」

朱莉はここで言葉を飲み込んだ。

「朱莉さん? ひょっとすると……って何?」

「え、いえ。何でもありません。それより翔先輩と明日香さんが待ってるんですよね? 早く不動産屋へ行きませんか?」

朱莉はパッと顔を上げて琢磨を見た。

「あ、そ……そうだね。それじゃ行こうか」

琢磨にはそれ以上聞く事が出来なかった。何故なら一瞬朱莉が泣きそうな表情をしているのを見てしまったからだ。

朱莉を車に乗せて運転しながら琢磨は朱莉の様子を伺うと、南国の景色を楽しんで見ている。そんな朱莉の横顔を見ながら琢磨は思った。

(朱莉さん……一体今何を考えているんだ?)

車が国際通りに入ると朱莉は目を見開いた。

「うわあ……。何だかここは随分賑わった場所ですね」

「ああ、ここは国際通りって呼ばれてるんだよ。商店街が沢山立ち並んでいてね、観光客で溢れかえる場所だよ。食べ物屋さんやお土産屋さんまで何でも揃っているよ。沖縄土産なら、この
이 책을 계속 무료로 읽어보세요.
QR 코드를 스캔하여 앱을 다운로드하세요
잠긴 챕터

관련 챕터

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   7-8 芽生え始めた嫉妬心 2

    「こちらの女性が今回物件を借りたいという方ですね?」不動産屋の女性が朱莉を値踏みするような目で見た。(う……た、確かに美人だわ。しかも私よりもずっと若いし……まさかこの2人は付き合っているのかしら? でもそれにしてはおかしいわ。女性一人をこんな立派なマンションに住まわせるなんて。ひょっとするとこの素敵な男性は何処かの組員で、彼女は幹部クラスの愛人か何かで、マンションを借りてあげるのかしら……)朱莉と琢磨は目の前の女性社員が頭の中で勝手な妄想を繰り広げていることなど露知らず、2人でパソコンの中に写されている内部写真の映像を観ている。「うわあ……九条さん。このマンション、全フロアオーシャンビューになっているみたいですよ」「そうだね。このマンションから沖縄の綺麗な海と青空を毎日見ることが出来るよ。それに一番便利なのは全て新品の家電や家具がついて来ている点だよ?」2人が顔を寄せ合うようにPC画面を見つめている姿を女性社員は嫉妬にまみれた顔でじっと見ている。しかし、それを他の社員が見ていた。朱莉と琢磨が集中して部屋の中を閲覧している時、不意に声をかけられた。「お待たして申し訳ございませんでした」目の前に現れたのは40代とみられる男性だった。「あれ……? 先程の女性はどうされたんですか?」琢磨が不思議そうに尋ねた。「ええ、彼女は他にも顧客を抱えておりまして多忙なので、私がこれから担当させていただきます。それでどうされますか? 内覧されて行きますか?」男性社員の言葉に琢磨は尋ねた。「朱莉さん、内覧出来るみたいだけど、どうする?」「いいえ、大丈夫です」朱莉の答えに琢磨は驚いた。「ええ!? 内覧しなくていきなり決めて大丈夫なのかい?」「はい、九条さんが選んでくれたなら問題ないでしょうから」じっと自分を見つめる朱莉に琢磨は戸惑いながらも目の前の男性社員に言った。「それでは賃貸契約をさせて下さい」その後—―朱莉と九条は賃貸契約を結び、引っ越し迄の流れを色々と話し合い、琢磨は鍵を預かって2人で不動産屋を後にした。  車に乗り込むと琢磨は声をかけた。「それじゃ、朱莉さん。明後日引っ越しをすることになるけど、大丈夫かい?」「はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」「自分の知らない土地で暮すっていうことは、色々不安も多いと思うけど…

    최신 업데이트 : 2025-04-11
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   7-9 明日香の依頼 1

     琢磨が病院へ入って行くと、椅子に座っている朱莉が嬉しそうに琉球グラスを見つめている姿があった。一瞬その姿を見て琢磨は俯くが、すぐに顔を上げた。「朱莉さん、お待たせ。それじゃ病室へ行こうか?」「はい、そうですね」朱莉は立ち上がると、琢磨の後をついて明日香の病室へと向かった。「朱莉さん、すまなかったね。わざわざ沖縄まで呼び寄せてしまって」病室の中へ入るとすぐに翔が朱莉に声をかけてきた。「いえ、そんな大丈夫です。気にしないで下さい。明日香さんのお身体は如何ですか?」朱莉はベッドの上にいる明日香に尋ねた。「そうね。時々お腹が急に張ったりはするけど今の所は大丈夫よ。でも退屈で死にそうだわ」すると翔が明日香の側に寄り、優しく言った。「こら、駄目だろう? 明日香。妊婦なのに死ぬとかそんな言葉を使ったりしたら」翔の明日香を見る目は正に愛しい人を見る眼差しだった。そしてそんな2人を見つめる朱莉の姿は悲し気に琢磨の目には写った。(翔の奴め……朱莉さんの前では少しくらい遠慮してやればいいのに……)琢磨はイライラしながら翔と明日香の様子を見ていたが、明日香と翔はまるで2人だけの世界に入ってしまったかの如く、仲睦まじげな様子を見せつけている。ついに琢磨は我慢の限界で声を上げた。「おい、2人供! いい加減にしろっ! 今完全に俺と朱莉さんの存在を忘れていただろう?」「い、いや。そんなことはないよ」「そうよ、変なこと言わないでよ、琢磨。それよりも朱莉さん。ちょっとこっちに来て」「は、はいっ!」朱莉はいそいそと明日香の側に行くと、1枚のメモを手渡された。「実は貴女に明日買ってきて貰いた物があるの。リストにまとめたから、買っておいてくれる?」朱莉はそのリストに目を通し……愕然とした。(え……? こんなにたくさん? 明日の面会までに?)そこには女性物の下着の他に、銘柄が指定された化粧品やマニキュア等様々な品物が書き出されていた。「いい? 朱莉さん。明日それを持って病院へ来てね? あ、あと……。ねえ、翔。私の洗濯物持って来てくれる?」「あ、ああ……。でも明日香、本当に朱莉さんに頼むのかい?」「ええ、だって嫌じゃない。病院の洗濯機は色々な人が使うのよ? 私はそんな洗濯機で自分のパジャマを洗いたくはないのよ。ねえ、朱莉さん。貴女に頼んでも構わないわよね

    최신 업데이트 : 2025-04-11
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   7-10 明日香の依頼 2

    「え? 琢磨……お前も行くのか?」翔が突然声をかけてきた。「当り前だろう? 朱莉さんを1人でホテルまで帰せるわけないだろう?」「いや……実は仕事の件で、どうしても早めに解決しなくてはならない案件があるんだが……」「だったら、お前1人でやればいいだろう? 俺はもう行かせて貰うからな。さ、行こう。朱莉さん」琢磨は朱莉を促して、連れて行こうとした矢先、翔が強く言った。「駄目だ! 琢磨、お前はここに残れ! お前と俺の2人で共有していた仕事の件なんだよ! だからお前は俺と一緒にここに残って仕事をして貰う。これは……業務命令だ」その言葉に琢磨は翔をキッと睨み付けた。「ハッ! 業務命令……か。分かったよ」琢磨は呟くように言うと、朱莉を見た。「ごめん。朱莉さん。ホテルへは1人で帰って貰えるかい?」「ええ、大丈夫ですよ。病院の前にタクシーは止まっていましたし、1人で帰れます」そして次に朱莉は明日香と翔に挨拶した。「すみません。それでは失礼致します。又明日伺いますね」そして朱莉は頭を下げると、静かに病室を後にした——**** 明日香の洗濯物という荷物を抱えた朱莉は病院の前でタクシーを拾い、行き先を告げた。タクシーは約20分程でホテルに到着したところで、朱莉は運転手に声をかけた。「あの、10分程で戻って来れると思いますので、すみませんがまだここで待っていていただけますか?」「ええ、大丈夫ですよ」「すみません。よろしくお願いします」朱莉は頭を下げると、明日香のクリーニングを持って足早にホテルの中へと入って行った。フロントで、急ぎでクリーニングを仕上げて欲しいと朱莉は頼むと、すぐにホテルを出た。ホテルの前には先程朱莉が乗って来たタクシーが待っていてくれている。「すみません、お待たせしました」「いえ。お客様。全然待っていませんから大丈夫ですよ。それで、どちら迄行かれますか?」「あの、国際通りまでお願いします」「国際通りの何処で降ろせばよろしいですか?」「何処……う~ん……何処……?」朱莉は考え込んでしまった。何せ沖縄に来るのも初めてだし、国際通りと言うのも初めて知ったのだ。するとタクシードライバーが笑った。「それでは国際通り入口までお乗せしましょうかね?」「はい、それでお願いします」 タクシーは約15分程で国際通り入口へ辿り着いた

    최신 업데이트 : 2025-04-11
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   7-11 焦り 1

    「変だな……? 通話中なんて・・」駐車場に止めた車の側で朱莉に電話を掛けた琢磨は首を傾げた。琢磨が掛けた番号は朱莉が個人で使用しているスマホで、翔との連絡用の番号では無い。今迄朱莉に電話を掛けて通話中だった事は一度も無かった。(ひょっとしてお母さんと話しているのだろうか……? いや、まさかそれとも……?)嫌な予感がして、一瞬琢磨の脳裏に京極の姿が頭をよぎった。(まさか……電話の相手は京極なんじゃ……)嫌な胸騒ぎが起こり始めていた。その胸騒ぎの理由を琢磨は心の中で弁明していた。(違う、俺が京極に嫌な気持ちを抱くのは、あいつが朱莉さんに好意を寄せているからじゃない。何故か分からないが……あの男が危険な人物にしか思えないからだ。朱莉さんに好意があるように思わせて、本当は別の目的があって朱莉さんに近付いている可能性だってあるんだし……)琢磨はスマホを握りしめると再度、朱莉に電話を掛けた——**** その今から10分ほど前――ようやく全ての買い物を終えた朱莉は近くのカフェで涼みながらアイス・カフェオレを飲んでいた。すると朱莉の個人用スマホに着信が入ってきた。その着信相手は……。「え? 京極さん?」朱莉は慌てて電話に出た。「はい、もしもし」『こんにちは、朱莉さん。沖縄に無事着いたんですよね?』「はい、着きました」『そうですか……僕の所に連絡が入ってこなかったので実は少し心配していたんですよ』京極に言われて朱莉はアッと思った。「も、申し訳ございません。折角搭乗ゲートまで送っていただいたのに、沖縄に着いたことを報告しなくて」『ハハハ……冗談ですよ。どうですか? 沖縄は?』「はい、お昼は京極さんに教えていただいたソーキそばを食べたんです。すごく美味しかったですよ。あと、国際通りにも行ってきました。色々なお店があって楽しい場所でした」『声がとても嬉しそうですね。良かったです、少し安心しました』「え? 安心?」『はい、朱莉さんはいつも心に大きな悩みでも抱えているのか、俯き加減でどこか寂し気で、儚げな女性に僕の目には映って見えました。でも今の声からはそんな風に思わせる所が無くて良かったです』「京極さん……」(私のこと、そんな風に見えていたんだ……)『ところで朱莉さん。今はお1人なんですか?』「はい、そうです」『そうですか、良かった

    최신 업데이트 : 2025-04-12
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   7-12 焦り 2

    (ど、どうしよう……)朱莉はすっかりうろたえてしまった。だが、このまま黙っているわけにもいかない。「あ、あの……京極さん……」『大丈夫です。何も言わなくていいです。僕は貴女を責める気など一切ありませんし、困らせたくもありません』電話越しから京極の労わるような声が聞こえてくる。「すみません……」『謝る事なんか一切ありませんよ。僕が今電話を掛けたのは朱莉さんが無事に沖縄へ辿り着けたことを確認したくて電話を掛けただけですから』「はい。連絡せずにすみませんでした」『いいえ。僕が勝手に心配して電話を掛けただけなので気にしないで下さい。それではまた連絡入れますね。失礼します』最期は朱莉が何か言う前に電話が切れてしまった。(京極さん……どうして私に構うんですか? 私達、お互いのこと殆ど何も知らないし、私は書類上とはいえ結婚しているのに……。こんなこと、疑いたくないけど……もしかして貴方は……)そこまで朱莉が考えていた時、再度朱莉のスマホが鳴った。(まさか……また京極さんから!?)朱莉は急いで着信相手を見ると、それは琢磨からであった。「はい、もしもし……」『朱莉さん!? 何とも無かったか!?』電話に出た早々に受話器越しから琢磨の切羽詰まった声が聞こえてきた。「九条さん? どうしたんですか? 何だか随分慌てている様ですけど?」『いや……さっき電話を入れたら通話中になっていたから、もしかしてお母さんに何かあったのかと思って……』「いいえ、違いますよ。母とは電話していません」『それじゃ……京極さんとかい?』「あ……。は、はい。そうです」『また何か嫌なことでも言われたりしたのかい?』「いえ、そんなことではありませんでした」『そうか、なら……って駄目だよな。俺がこんなこと聞いたりしたら。朱莉さんのプライバシーの問題だってあるわけだし』「九条さん……」朱莉は琢磨に何と声をかければ良いか分からなかった。『朱莉さん。今何処にいるんだい? 迎えに行くよ。それに昨日は誕生日だっただろ? 1日遅れたけど何かお祝いさせてもらえないかな? 食事でも一緒にどうだい?』「あ、あの……・お気持ちはとても嬉しいですが、九条さん、お疲れではないですか? 明後日には東京に戻らなければならないのに。なので私のことは別に……」言いかけた時、琢磨の低い声が聞こえて来

    최신 업데이트 : 2025-04-12
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   7-13 抱えきれない荷物の行方 1

    「ごめん、待ったかな。朱莉さん」15分程経過して琢磨がカフェで待つ朱莉の前に現れた。「いいえ、それ程でもありませんよ。意外と早かったですね」「そうだね。少し近道を発見したからさ」「九条さん。折角ですから何か飲まれて行ってはいかがですか?」「うん……そうだな。それじゃちょっと何かメニュー見てくるよ」「はい、行ってらっしゃい」朱莉の言葉に、一瞬琢磨の顔が赤く染まった。(え……?)しかし、次の瞬間。いつもと変わらぬ様子の琢磨がいた。「それじゃ行ってくるよ」琢磨は朱莉に声をかけ、コーヒーを買いに向かった。その後姿を朱莉は首を傾げながら見守り、ポツリと呟いた。「今の……気のせいだったのかな?」 それから数分で琢磨はアイス・コーヒーを持って戻り、朱莉の向かい側に座ると尋ねた。「朱莉さん。明日香ちゃんの買い物全部終わらせられたかい?」「はい、何とか揃える事が出来ました。これで安心出来ました」「ごめん。明日香ちゃんに色々用事を言いつけられたのに、協力してあげることが出来なくて」「何言ってるんですか、九条さんは翔さんの秘書なんですから、私のお手伝いなんてとんでもないですよ。私のことなら気にしないで、どうぞ翔先輩の力になってあげて下さい」朱莉は慌てて返事をした。「確かに俺は翔の秘書だけど……一人の人間として朱莉さんが心配なんだ」「私は本当に感謝していますよ。翔先輩のこととは関係なく、いつも気にかけていただいてるし、今回の沖縄行きの件にしても航空券の手配から、ホテルの予約。そのうえあんな立派なマンションまで探していただいたのですから。こんなに誰かに親切にしていただいたのは高校生の時以来です。本当にありがとうございます」「朱莉さん……」そこで琢磨は言葉を飲み込んだ。(朱莉さん、高校の時以来って……その相手は翔のことだろう?)どんなに朱莉を手助けしても、結局のところ朱莉にとっての一番は翔だと言う事実に改めて琢磨は悲しい気持ちになるのだった。(だが……朱莉さんの負担を少しでも減らしてあげることが出来れば、それが自分の罪滅ぼしなんだ……)「ところで九条さん、どこに食事に行くか決めてあるんですか?」「まだ特には決めていないんだ。だって今夜は朱莉さんの1日遅れの誕生祝だからね、どんなものを食べたいのか聞いてから決めようかと思っていたんだ。」「

    최신 업데이트 : 2025-04-12
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   7-14 抱えきれない荷物の行方 2

    「朱莉さん……この荷物は?」「え? 明日香さんに頼まれた買い物ですけど?」それは両手に抱えてもかなりの量の買い物であった。琢磨は唇をかみしめ、両手をグッと握りしめた。(こんなに大量の品を小柄な朱莉さんに暑い中、一人で買わせるなんて……!)琢磨の視線の先に自分が買ってきた品物があることに気づいた朱莉は慌てて弁明した。「あ、あの、それ程重くは無かったので、本当に大丈夫ですから」買い物袋を手に取ろうすると、それらを全て琢磨が持ってしまった。「あ……」(重くは無かったなんて言っていたけど、男の俺からみても中々重いじゃないか……。ん?)そのとき、琢磨は朱莉の足元に小さな折り畳み式のキャリーカートが置かれていることに気が付いた。「朱莉さん、これは何だい?」「実は、やっぱり重くて、その、キャリーカートを買ったんです。でもお陰で楽に運べました。この先きっとあれば重宝すると思いますし」朱莉は自分が下手な言い訳をしているような気分になって、俯く。「そうか……ならこれに入れて運ぼう」琢磨は折り畳んであったキャリーカートを広げた。「まずは先に明日香ちゃんの病院へ行こう」「え? な、何を言ってるんですか?」「これだけ多くの荷物、明日クリーニングされた洗濯物と一緒に運ぶのは大変だ。今日これを明日香ちゃっんの病室に届けてしまえば、明日は荷物が少なくて済むから」その口調はいつもより鋭く、有無を言わさないような雰囲気があった。「わ、分かりました」「それじゃすぐに行こう」琢磨はキャリーカートを引くと、声をかけてきた。「はい……」**** その後の琢磨は終始不機嫌だった。駐車場に向かう時も無言だったし、病院へ向かう車の中でも何やら考え事でもしているのかずっと無言を通していた。朱莉は何だか居心地が悪かった。これで車内のカーステレオから沖縄特有の歌が流れていなければ、息ぐるしい空間であったのは間違い無かった。 やがて琢磨の車は明日香が入院している病院に到着した。琢磨は病院の正面に横付けするとようやく朱莉に話しかけてきた。「朱莉さん。荷物を降ろすから先に病院のロビーで待っていてもらえるかな? 俺は車を駐車場に停めてくるから」「はい、分かりました」朱莉が車を降り、明日香の買い物が入ったキャリーカートを降ろそうとすると、琢磨が素早く運転席から降りてきた。

    최신 업데이트 : 2025-04-12
  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   7-15 悲しい立ち聞き 1

    —―コンコン病室のドアがノックされた。「あら、誰かしらね? 看護師さんかしら?」明日香がPCから目を上げた。「うん? でもさっき来たばかりだしな……」すると外から声が聞こえた。「俺だ、琢磨だ」「何だ、琢磨か。中に入れよ」翔に言われて琢磨はドアを開けて中へ入って来たのだが……。「な、何だ? 琢磨。お前随分機嫌が悪そうだが……ひょっとして朱莉さんと何かあったのか?」「あら、そうなの? 琢磨」明日香は何処となく嬉しそうな笑みを浮かべて琢磨を見る。「違う! そんなんじゃない! 明日香ちゃんに頼まれた買い物を朱莉さんが揃えたから今それを届けに来ただけだ!」琢磨は乱暴に言うと、持って来たキャリーカートを2人の前に見せた。「こ、これは……」翔が言い淀んだ。「あら。よくこんなに沢山買い揃える事が出来たわね。別に入院期間中に揃えてくれなくても良かったのに」明日香の言葉に琢磨はイラついた様子で反論した。「明日香ちゃん、朱莉さんに頼む時そんな言い方はしていなかったぞ?」「あら、そうだったかしら?」「しかし……明日香……。こんなに沢山買い物を朱莉さんに頼んでいたのか?」翔の言葉に琢磨は目を見開いた。「何だって? おい、翔。お前は明日香ちゃんが朱莉さんにどれだけ買い物を頼んでいたのか知らなかったのか!?」「あ、ああ……知っていたらお前を買い物に付き合わせていたよ。さっきの仕事は今夜中に終わらせればいいだけの話だし……」そんな2人のやり取りを明日香は知らんぷりしてPCを見ている。「明日香ちゃん、まるで他人事のような態度を取っているけど買い物の中身を確認しなくていいのか?」怒りを抑えた口調で琢磨が尋ねる。「ええ、別に必要無いわ」「「何だって?」」琢磨と翔が声を揃えた。「だって、適当に雑誌で見て選んだだけですもの。いちいち自分が何を買い物リストに書いたのかも覚えていないわ」「な、何だって……?」琢磨は明日香を睨み付けた。「何よ。そんな目で人のことを見て」「お、おい。琢磨。明日香は絶対安静の身なんだ。あんまり怯えさせるなよ。だけど少しは買い物を頼まれた朱莉さんのことを考えてあげたらどうだ? あれだけの買い物は大変だったと思うぞ?」翔が明日香に問いかけた。「そうねぇ。実際に集めるとこんなに量が多かったのね。パッケージの分で傘増し

    최신 업데이트 : 2025-04-12

최신 챕터

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-20 翔の隠し事 2

    「翔さん、落ち着いて下さい。医者の話では出産と過呼吸のショックで一時的に記憶が抜け落ちただけかもしれないと言っていたではありませんか。それに対処法としてむやみに記憶を呼び起こそうとする行為もしてはいけないと言われましたよね?」「ああ……だから俺は何も言わず我慢しているんだ……」「翔さん。取りあえず今は待つしかありません。時がやがて解決へ導いてくれる事を信じるしかありません」やがて、2人は一つの部屋の前で足を止めた。この部屋に明日香の目を胡麻化す為に臨時で雇った蓮の母親役の日本人女子大生と、日本人ベビーシッター。そして生れて間もない蓮が宿泊している。 翔は深呼吸すると、部屋のドアをノックした。すると、程なくしてドアが開かれ、ベビーシッターの女性が現れた。「鳴海様、お待ちしておりました」「蓮の様子はどうだい?」「良くお休みになられていますよ。どうぞ中へお入りください」促されて翔と姫宮は部屋の中へ入ると、そこには翔が雇った蓮の母親役の女子大生がいない。「ん? 例の女子大生は何処へ行ったんだ?」するとシッターの女性が説明した。「彼女は買い物へ行きましたよ。アメリカ土産を持って東京へ戻ると言って、買い物に出かけられました。それにしても随分派手な母親役を選びましたね?」「仕方なかったのです。急な話でしたから。それより蓮君はどちらにいるのですか?」姫宮はシッターの女性の言葉を気にもせず、尋ねた。「ええ。こちらで良く眠っておられますよ」案内されたベビーベッドには生後9日目の新生児が眠っている。「まあ……何て可愛いのでしょう」姫宮は頬を染めて蓮を見つめている。「あ、ああ……。確かに可愛いな……」翔は蓮を見ながら思った。(目元と口元は特に明日香に似ているな)「残念だったよ、起きていれば抱き上げることが出来たんだけどな。帰国するともうそれもかなわなくなる」すると姫宮が言った。「いえ、そんなことはありません。帰国した後は朱莉さんの元へ会いに行けばいいのですから」「え? 姫宮さん?」翔が怪訝そうな顔を見せると、姫宮は、一種焦った顔をみせた。「いえ、何でもありません。今の話は忘れてください」「あ、ああ……。それじゃ蓮の事をよろしく頼む」翔がシッターの女性に言うと、彼女は驚いた顔を見せた。「え? もう行かれるのですか?」「ああ。実はこ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-19 翔の隠し事 1

     アメリカ—— 明日いよいよ翔たちは日本へ帰国する。翔は自分が滞在しているホテルに明日香を連れ帰り、荷造りの準備をしていた。その一方、未だに自分が27歳の女性だと言うことを信用しない明日香は鏡の前に座り、イライラしながら自分の顔を眺めている。「全く……どういうことなの? こんなに自分の顔が老けてしまったなんて……」それを聞いた翔は声をかける。「何言ってるんだ、明日香。お前はちっとも老けていないよ。いつもどおりに綺麗な明日香だ」すると……。「ちょっと! 何言ってるのよ、翔! 自分迄老け込んで、とうとう頭もやられてしまったんじゃないの? 今迄そんなこと私に言ったこと無かったじゃない。大体おかしいわよ? 私が病院で目を覚ました時から妙にベタベタしてくるし……気味が悪いわ。もしかして私に気があるの? 言っておくけど仮にも血が繋がらなくたって私と翔は兄と妹って立場なんだから! 私に対して変な気を絶対に起こさないでね!?」明日香は自分の身体を守るように抱きかかえ、翔を睨み付けた。「あ、ああ。勿論だ、明日香。俺とお前は兄と妹なんだから……そんなことあるはず無いだろう?」苦笑する翔。「ふ~ん……翔の言葉、信用してもいいのね?」「ああ、勿論さ」「だったらこの部屋は私1人で借りるからね! 翔は別の部屋を借りてきてちょうだい。 あ、でも姫宮さんは別にいて貰っても構わないけど?」明日香は部屋で書類を眺めていた姫宮に声をかける。「はい、ありがとうございます」姫宮は明日香に丁寧に挨拶をした。「それでは翔さん、別の部屋の宿泊手続きを取りにフロントへ御一緒させていただきます。明日香さん。明日は日本へ帰国されるので今はお身体をお安め下さい」姫宮は一礼すると、翔に声をかけた。「それでは参りましょう。翔さん」「あ、ああ。そうだな。それじゃ明日香、まだ本調子じゃないんだからゆっくり休んでるんだぞ?」部屋を出る際に翔は明日香に声をかけた。「大丈夫、分かってるわよ。自分でも何だかおかしいと思ってるのよ。急に老け込んでしまったし……大体私は何で病院にいたの? 交通事故? それとも大病? そうでなければ身体があんな風になるはず無いもの……」明日香は頭を押さえながらブツブツ呟く「ならベッドで横になっていた方がいいな」「そうね……。そうさせて貰うわ」返事をすると

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-18 雨の中の再会 2

     琢磨に礼を言われ、朱莉は恐縮した。「い、いえ。お礼を言われるほどのことはしていませんから」「朱莉さん、そろそろ17時になる。折角だから何処かで食事でもして帰らないかい?」「あ、それならもし九条さんさえよろしければ、うちに来ませんか? あまり大した食事はご用意出来ないかもしれませんが、なにか作りますよ?」朱莉の提案に琢磨は目を輝かせた。「え?いいのかい?」「はい、勿論です。あ……でもそれだと九条さんの相手の女性の方に悪いかもしれませんね……」「え?」その言葉に、一瞬琢磨は固まる。(い、今……朱莉さん何て言ったんだ……?)「朱莉さん……ひょっとして俺に彼女でもいると思ってるのかい?」琢磨はコーヒーカップを置いた。「え? いらっしゃらないんですか?」朱莉は不思議そうに首を傾げた。「い、いや。普通に考えてみれば彼女がいる男が別の女性を食事に誘ったり、こうして買い物について来るような真似はしないと思わないかい?」「言われてみれば確かにそうですね。変なことを言ってすみませんでした」朱莉が照れたように謝るので琢磨は真剣な顔で尋ねた。「朱莉さん、何故俺に彼女がいると思ったの?」「え? それは九条さんが素敵な男性だからです。普通誰でも恋人がいると思うのでは無いですか?」「あ、朱莉さん……」(そんな風に言ってくれるってことは……朱莉さんも俺のことをそう言う目で見てくれているってことなんだよな? だが……これは喜ぶべきことなのだろうか……?)琢磨は複雑な心境でカフェ・ラテを飲む朱莉を見つめた。すると琢磨の視線に気づく朱莉。「九条さんは何か好き嫌いとかはありますか?」「いや、俺は好き嫌いは無いよ。何でも食べるから大丈夫だよ」それを聞いた朱莉は嬉しそうに笑った。「九条さんも好き嫌い無いんですね。航君みたい……」その名前を琢磨は聞き逃さなかった。「航君?」「あ、いけない! すみません、九条さん、変なことを言ってしまいました。そ、それじゃもう行きませんか?」朱莉は慌てて、まるで胡麻化すように席を立ちあがった。「あ、ああ。そうだね。行こうか?」琢磨も何事も無かったかの様に立ち上がったが、心は穏やかでは無かった。(航君……? 一体誰のことなんだろう? まさかその人物が朱莉さんと沖縄で同居していた男なのか?それにしても君付けで呼ぶなん

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-17 雨の中の再会 1

     14時―― 朱莉がエントランス前に行くと、すでに琢磨が億ションの前に車を停めて待っていた。「お待たせしてすみません。九条さん、もういらしてたんですね」朱莉は慌てて頭を下げた。「いや、そんなことはないよ。だってまだ約束時間の5分以上前だからね」琢磨は笑顔で答えた。本当はまた今日も朱莉に会えるのが嬉しくて、今から15分以上も前にここに到着していたことは朱莉には内緒である。「それじゃ、乗って。朱莉さん」琢磨は助手席のドアを開けた。「はい、ありがとうございます」朱莉が助手席に座ると、琢磨も乗り込んだ。シートベルトを締めてハンドルを握ると早速朱莉に尋ねた。「朱莉さんは何処へ行こうとしていたんだっけ?」「はい。赤ちゃんの為に何か素敵なCDでも買いに行こうと思っていたんです。それとまだ買い足したいベビー用品もあるんです」「よし、それじゃ大型店舗のある店へ行ってみよう」「はい、お願いします」琢磨はアクセルを踏んだ――**** それから約3時間後――朱莉の買い物全てが終了し、車に荷物を積み込んだ2人はカフェでコーヒーを飲みに来ていた。「思った以上に買い物に時間がかかってしまったね」「すみません。九条さん……私のせいで」朱莉が申し訳なさそうに頭を下げた。「い、いや。そう意味で言ったんじゃないんだ。まさか粉ミルクだけでもあんなに色々な種類があるとは思わなかったんだよ」「本当ですね。取りあえず、どんなのが良いか分からなくて何種類も買ってしまいましたけど口に合う、合わないってあるんでしょうかね?」「う~ん……どうなんだろう。俺にはさっぱり分からないなあ……」琢磨は珈琲を口にした。「そう言えば、すっかり忘れていましたけど、九条さんの会社はインターネット通販会社でしたね?」「い、いや。俺の会社と言われると少し御幣を感じるけど……まあそうだね」「当然ベビー用品も扱っていますよね?」「うん、そうだね」「それでは今度からはベビー用品は九条さんの会社で利用させていただきます」「ありがとう。確かに新生児がいると母親は買い物も中々自由に行く事が難しいかもね。……よし、今度の企画会議でベビー用品のコンテンツをもっと広げるように提案してみるか……」琢磨は仕事モードの顔に変わる。「ついでに赤ちゃん用の音楽CDもあるといいですね。出来れば視聴も試せ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-16 帰国の知らせ 2

     朝食を食べ終わり、片付けをしていると今度は朱莉の個人用スマホに電話がかかってきた。それは琢磨からであった。昨夜琢磨と互いのプライベートな電話番号とメールアドレスを交換したのである。「はい、もしもし」『おはよう、朱莉さん。翔から何か連絡はあったかい?』「はい、ありました。突然ですけど明日帰国してくるそうですね」『ああ、そうなんだ。俺の所にもそう言って来たよ。それで明日香ちゃんの為に俺にも空港に来てくれと言ってきたんだ。……当然朱莉さんは行くんだろう?』「はい、勿論行きます」『車で行くんだよね?』「はい、九条さんも車で行くのですね」『それが聞いてくれよ。翔から言われたんだ。車で来て欲しいけど、俺に運転しないでくれと言ってるんだ。仕方ないから帰りだけ代行運転手を頼んだんだよ。全く……いつまでも俺のことを自分の秘書扱いして……!』苦々し気に言う琢磨。それを聞いて朱莉は思った。(だけど九条さんも人がいいのよね。何だかんだ言っても、いつも翔先輩の言うことを聞いてあげているんだから)朱莉の思う通り、琢磨自身が未だに自分が翔の秘書の様な感覚が抜けきっていないのも事実である。それ故、多少無理難題を押し付けられても、つい言いなりになってしまうことに琢磨自身は気が付いていなかった。「でも、どうしてなんでしょうね? 九条さんに運転をさせないなんて」朱莉は不思議に思って尋ねた。『それはね、全て明日香ちゃんの為さ。明日香ちゃんは自分がまだ高校2年生だと思っているんだ。その状態で俺が車を運転する訳にはいかないんだろう。全く……せめて明日香ちゃんが自分のことを高3だと思ってくれていれば、在学中に免許を取ったと説明して運転出来たのに……』琢磨のその話がおかしくて、朱莉はクスリと笑ってしまった。「でもその場に私が現れたら、きっと変に思われますよね? 明日香さんには私のこと何て説明しているのでしょう?」『……』何故かそこで一度琢磨の声が途切れた。「どうしたのですか? 九条さん」『朱莉さん……君は何も聞かされていないのかい?』「え……?」『くそ! 翔の奴め……いつもいつも肝心なことを朱莉さんに説明しないで……!』「え? どういうことですか?」(何だろう……何か嫌な胸騒ぎがする)『俺も今朝聞いたばかりなんだよ。翔は現地で臨時にアルバイトとして女子大生と

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-15 帰国の知らせ 1

    「それじゃ、朱莉さん。次は翔から何か言ってくるかもしれないけど、くれぐれもアイツの滅茶苦茶な要求には答えたら駄目だからな?」タクシーに乗り込む直前の朱莉に琢磨は念を押した。「九条さんは随分心配性なんですね。私なら大丈夫ですから」朱莉は笑みを浮かべた。「もし翔から契約内容を変更したいと言ってきたら……そうだな。まずは俺に相談してから決めると返事をすればいい」するとタクシー運転手が話しかけてきた。「すみません。後が詰まってるので……出発させて貰いたいのですが……」「あ! すみません!」琢磨は慌ててタクシーから離れると、朱莉が乗り込んだ。車内で朱莉が琢磨に頭を下げる姿が見えたので、琢磨は手を振るとタクシーは走り去って行った。「ふう……」タクシーの後姿を見届けると、琢磨はスマホを取り出して、電話をかけた。「もしもし……はい。そうです。今別れた所です。……ええ。きちんと伝えましたよ。……後はお任せします。え? ……いいのかって? ……あなたなら何とかしてくれるでしょう? それだけの力があるのですから。……失礼します」そして電話を切ると、夜空を見上げた。「雨になりそうだな……」**** 翌朝――6時朱莉はベッドの中で目を覚ました。昨夜は琢磨から聞いた翔の伝言で頭がいっぱいで、まともに眠ることが出来なかった。寝不足でぼんやりする頭で起きて、着替えをするとカーテンを開けた。「あ……雨……。どうりで薄暗いと思った……」今日は朱莉の車が沖縄から届く日になっている。車が届いたら朱莉は新生児に効かせる為のCDを買いに行こうと思っていた。これから複雑な環境の中で育っていく子供だ。せめて綺麗な音楽に触れて、情操教育を養ってあげたいと朱莉は考えていた。洗濯物を回しながら朝食の準備をしていると、翔との連絡用のスマホに着信を知らせる音楽が鳴った。(まさか、翔先輩!?)朱莉はすぐに料理の手を止め、スマホを見るとやはり翔からのメッセージだった。今朝は一体どんな内容が書かれているのだろう? 翔からの連絡は嬉しさの反面、怖さも感じる。好きな人からの連絡なのだから嬉しい気持ちは確かにあるのだが問題はその中身である。大抵翔からのメールは朱莉の心を深く傷つける内容が殆どを占めている。(やっぱり契約内容の変更についてなのかなあ……)朱莉はスマホをタップした。『おは

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-14 翔の新たな要求 2

    「本当はこんなこと、朱莉さんに言いたくは無かった。だが翔が仮に今の話を直接朱莉さんに話したとしたら? 恐らく翔のことだ。きっと再び朱莉さんを傷付けるような言い方をして、挙句の果てに、これは命令だとか、ビジネスだ等と言って強引に再契約を結ばせるつもりに違いない。だがそんなこと、絶対に俺はさせない。無期限に朱莉さんを縛り付けるなんて絶対にあってはいけないんだ」琢磨は顔を歪めた。(え……無期限に明日香さんの子供の面倒を? それってつまり偽装婚も無期限ってこと……?)なので朱莉は琢磨に尋ねた。「あの……それってつまり翔さんは私との偽装結婚を無期限にする……ということでもあるのですよね?」(そうしたら、私……もう少しだけ翔先輩と関わっていけるってことなのかな?)しかし、次の瞬間朱莉の淡い期待は打ち砕かれることになる。「いや、翔の言いたいことはそうじゃないんだ。当初の予定通り偽装婚は残り3年半だけども子育てに関しては明日香ちゃんが記憶を取り戻すまで続けて貰いたいってことなんだよ」「え……?」「つまり、翔は3年半後には契約通りに朱莉さんと離婚して、子供だけは朱莉さんに引き続き面倒を見させる。しかも明日香ちゃんが記憶を取り戻すまで、無期限にだ。こんな虫のいい話あり得ると思うかい?」「……」朱莉はすっかり気落ちしてしまった。(やっぱり……ほんの少しでも翔先輩から愛情を分けて貰うのは所詮叶わないことなの? でも……)「九条さん」朱莉は顔を上げた。「何だい」「私、明日香さんと翔さんの赤ちゃんを今からお迎えするの、本当に楽しみにしてるんです。例え自分が産んだ子供で無くても、可愛い赤ちゃんとあの部屋で一緒に暮らすことが待ちきれなくて……」「朱莉さん……」「九条さん。もし、子供が3歳になっても明日香さんが記憶を取り戻せなかった場合は、翔さんは私に引き続き子供を育てて欲しいって言ってるわけですよね? それって……翔さんは記憶の戻っていない明日香さんにお子さんを会わせてしまった場合、お互いにとって精神面に悪影響が出るのではと苦慮して私に預かって貰いたいと思っているのではないでしょうか? だって、考えても見てください。ただでさえ10年分の記憶が抜けて自分は高校生だと信じて疑わない明日香さんに貴女の産んだ子供ですと言って対面させた場合、明日香さんが正常でいられると

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-13 翔の新たな要求 1

     明日香が10年分の記憶を失い、高校生だと思い込んでいる話は朱莉にとってあまりにもショッキングな話であった。「朱莉さん、大丈夫かい? 顔色が真っ青だ」「は、はい。大丈夫です。でもそうなると今一番大変なのは翔先輩ではありませんか?」朱莉は翔のことが心配でならなかった。あれ程明日香を溺愛しているのだ。17歳の時、翔と明日香は交際していたのだろうか? ただ、少なくとも朱莉が入学した当時の2人は交際しているように見えた。「朱莉さん、翔が心配かい?」琢磨が少し悲し気な表情で尋ねてきた。「はい、とても心配です。勿論一番心配なのは明日香さんですけど」「やっぱり朱莉さんは優しい人なんだね」(あの2人に今迄散々蔑ろにされてきたのに……それらを全て許して今は2人をこんなに気に掛けて……)「何故翔さんは九条さんに連絡を入れてきたのですか? それに、どうして九条さんから私に説明することになったのでしょう?」朱莉は琢磨の瞳をじっと見つめた。「俺も、2日前に翔から突然メッセージが届いたんだよ。あの時は驚いた。翔と決別した時に、アイツはこう言ったんだよ。互いに二度と連絡を取り合うのをやめにしようと。こちらとしてはそんなつもりは最初から無かったけど、翔がそこまで言うのならと思って自分から二度と連絡するつもりは無かったんだ。それなのに突然……」そして、琢磨は近くを通りかかった店員に追加でマティーニを注文すると朱莉に尋ねた。「朱莉さんはどうする?」「それでは私はアルコール度数が低めのお酒で」「それなら、『ミモザ』なんてどうかな? シャンパンをオレンジジュースで割った飲み物だよ。アルコール度数も8度前後で、他のカクテルに比べると度数が低い」琢磨はメニュー表を見ながら朱莉に言った。「はい、ではそちらを頂きます」「かしこまりました」店員は頭を下げると、その場を立ち去っていく。すると琢磨が再び口を開いた。「明日香ちゃんは自分を高校生だと思い込んでいるから、当然翔の隣にはいつも俺がいるものだと思い込んでいるらしいんだ。考えてみればあの頃の俺達はずっと3人で一緒に高校生活を過ごしてきたようなものだからね。それで明日香ちゃんが目を覚ました時、翔に俺のことを聞いてきたらしい。『琢磨は何処にいるの?』って。それで一計を案じた翔が明日香ちゃんを安心させる為に、もう一度3人で会いた

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   1-12 重大な話 2

    「九条さんが【ラージウェアハウス】の新社長に就任した話はニュースで知ったんです。あの時九条さん言ってましたよね? 鳴海グループにも負けない程のブランド企業にするって」「ああ、あの話か……。あれは……まあもう1人の社長にああいうふうに言えって半ば命令されたからさ。自分の意思で言った訳じゃ無いが正直、気分は良かったな」琢磨は笑みを浮かべる。「あの翔に一泡吹かせることが出来たみたいだし。初めはテレビインタビューなんて御免だと思ったけどね。大分、翔の奴は慌てたらしい」朱莉もカクテルを飲むと琢磨を見た。「え? その話は誰から聞いたんですか?」「会長だよ」琢磨の意外な答えに朱莉は驚いた。「九条さんは会長と個人的に連絡を取り合っていたのですか?」「ああ、そうだよ。実は以前から会長に秘書にならないかと誘われていたんだ。でも俺は翔の秘書だったから断っていたんだけどね」「そうだったんですか」あまりにも驚く話ばかりで朱莉の頭はついていくのがやっとだった。「それにしても朱莉さんも随分雰囲気が変わったよね? 前よりは積極的になったようだし、お酒も飲めるようになってきた。……ひょっとして沖縄で何かあったのかい?」琢磨の質問に朱莉は一瞬迷ったが、決めた。(九条さんだって話をしてくれたのだから、私も航君のこと、話さなくちゃ)「実は……」朱莉は沖縄での航との出会い、そして別れまでを話した。もっとも名前を明かす事はしなかったが。一方の琢磨は朱莉の話を呆然と聞いていた。(まさか朱莉さんが男と同居していたなんて。しかもあんなに頬を染めて嬉しそうに話してくるってことは……その男、朱莉さんに取って特別な存在だったのか?)朱莉が沖縄で男性と同居をしていた……その事実はあまりに衝撃的で、琢磨の心を大きく揺さぶった。「それでその彼とは東京へ戻ってからは音信不通……ってことなのかい?」内心の動揺を隠しながら琢磨は尋ねた。「はい。そうです。だから条さんとは連絡が取れて嬉しかったです。ありがとうございました」お酒でうっすら赤く染まった頬ではにかみながら琢磨にお礼を言う朱莉の姿は琢磨の心を大きく揺さぶった。「そ、そんな笑顔で喜んでくれるなんて思いもしなかったよ。でも……そうか。朱莉さんが以前よりお酒を飲めるようになったのはその彼のお陰なんだね?」「そうですね……。きっとそう

좋은 소설을 무료로 찾아 읽어보세요
GoodNovel 앱에서 수많은 인기 소설을 무료로 즐기세요! 마음에 드는 책을 다운로드하고, 언제 어디서나 편하게 읽을 수 있습니다
앱에서 책을 무료로 읽어보세요
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status